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宇都宮地方裁判所足利支部 昭和31年(ワ)19号 判決 1957年12月28日

原告 国

訴訟代理人 家弓吉巳 外三名

被告 小島久江 外四名

主文

1、訴外張安が昭和二九年一月一八日別紙第一目録記載のイ、宅地及びロ、建物につき被告小島久江との間にした売買はこれを取り消す。

2、被告小島久江は原告に対して別紙第一目録記載のイ、宅地につきした宇都宮地方法務局足利支局昭和二九年一月一八日受付第一一五号及び同目録記載のロ、建物につきした同局昭和二九年一月一八日受付第一一六号前項売買に基く所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3、訴外張仁輝が昭和二九年一月一八日第二目録記載のイ、ロ、宅地につき被告張仁盛との間にした売買はこれを取り消す。

4、被告張仁盛は原告に対して別紙第二目録記載のイ、ロ、宅地につきした宇都宮地方法務局足利支局昭和二九年一月一九日受付第一三一号前項売買に基く所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

5、訴外張仁輝及び張仁八が昭和二九年一月一五日別紙第四目録記載のハ、ニ、宅地及びイ、ロ、建物につき被告張兆錠との間にした貸金債務二〇八万円に対する代物弁済はこれを取り消す。

6、被告張兆錠は原告に対して別紙第四目録記載のイ、建物及びハ、宅地につきした宇都宮地方法務局足利支局昭和二九年二月一日受付第二八一号及び同目録記載のロ、建物及びニ、宅地につきした同局昭和二九年二月一日受付第二八二号売買に基く所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

7、訴外張仁八が昭和二九年一月一八日別紙第二目録記載のハ、建物につき被告張仁盛との間にした売買はこれを取り消す。

8、被告張仁盛は原告に対して別紙第二目録記載のハ、建物につきした宇都宮地方法務局足利支局昭和二九年一月一九日受付第一三二号前項売買に基く所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

9、訴外張仁八が昭和二九年五月二七日別紙第三目録記載のロ、宅地及びイ、建物につき被告岡田平八郎との間にした贈与はこれを取り消す。

10、被告岡田平八郎は原告に対して別紙第三目録記載のロ、宅地及びイ、建物につきした長野地方法務局小諸出張所昭和二九年五月二八日受付第一、三七四号前項贈与に基く所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

11、訴外張仁吉が昭和二九年一月一八日別紙第五目録記載のロ、ハ、ニ、ホ、宅地及びイ、建物につき被告張実との間にした売買はこれを取り消す。

12、被告張実は原告に対して別紙第五目録記載のロ、ハ、ニ、ホ、宅地につきした宇都宮地方法務局足利支局昭和二九年一月一八日受付第一二三号及び同目録記載のイ、建物につきした同局同年同月同日受付第一二四号前項売買に基く所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

13、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

主文と同趣旨の判決を求める。

第二、請求の原因

一、訴外張安、張仁輝、張仁吉は足利市通四丁目二、五六二番地に、訴外張仁八は同市西宮町二、八九六番地に居住しており、張安は訴外張兆森の妻で、張仁輝、張仁八、張仁吉は張兆森の子であるが、張兆森は昭和二六年一月二七日死亡し、同人は昭和二四年分及び昭和二五年分の所得税合計八、九九四、〇六〇円、昭和二四年分贈与税二一五、三六〇円、昭和二五年分富裕税一五六、一六〇円を課せられるところ、同人は生存中右各税につき申告せず、また同人の相続人である前記訴外人等も申告しなかつたので、足利税務署長は調査に基き昭和二九年一月一一日訴外人等が張兆森の右納税義務を承継したとして同人等に対し後記滞納税額明細表記載のとおり決定通知したので(国税徴収法第四条の二、所得税法第二六条第五項、第四四条第四項等参照)、前記張安、張仁輝、張仁八、張仁吉は右兆森の未納租税債務を承継した。また訴外張仁輝及び張仁八は昭和二六年分の所得税につき、張仁輝は昭和二四年分の贈与税につき、いずれも所定の申告をしなかつたので、足利税務署長は調査に基き昭和二九年一月一一日後記滞納税額明細表記載のとおりそれぞれ決定してその旨の通知と共に即日納入を告知した。さらに前記安、仁輝、仁八、仁吉は兆森より相続した財産につき、相続税に関する期限後の申告書を提出したが、同人等の申告額が過少であつたため足利税務署長は調査と異るとして前同一月一一日後記滞納税額明細表記載のとおりそれぞれ更正して通知と共に即日納入を告知した。ところが、同人等は再三の督促にもかかわらず右租税を全く納付しない。(同人等の承継租税債務、更正及び決定税額の内訳は後記滞納税額明細表記載のとおりである。)

二、そして訴外張安は別紙第一目録記載の不動産以外に前記滞納租税を完納するに足る財産を有しないにかかわらず、右不動産に対する差押を免れるため、主文第一、二項記載のように昭和二九年一月一八日右不動産を被告小島久江に売り渡し、同日同人に対する所有権移転の登記手続をすませた。

三、訴外張仁輝は別紙第二目録イ、ロ及び別紙第四目録ロ、ニ記載の不動産以外に前記滞納租税を完納するに足る財産を有しないにかかわらず、右不動産に対する差押を免れるため、主文第三、四項記載のように昭和二九年一月一八日別紙第二目録イ、ロ記載の不動産を訴外張仁八所有の別紙第二目録ハ記載の不動産と共に被告張仁盛にあわせて代金六〇万円で売り渡し、同月一九日同人に所有権移転の登記手続をすませ、主文第五、六項記載のように同年一月一五日別紙第四目録ハ、ニ記載の不動産を訴外張仁八所有の別紙第四目録イ、ハ記載の不動産とあわせて被告張兆錠に同人に対する消費貸借による右仁八との連帯債務二〇八万円の代物弁済となし、同年二月一日同人に対する所有権移転の登記手続をすませた。

四、訴外張仁八は別紙第二目録ハ、同第三目録、同第四目録イ、ハ記載の不動産以外に前記滞納租税を完納するに足る財産を有しないにかかわらず、右不動産に対する差押を免れるため、主文第五、六項記載のように昭和二九年一月一五日別紙第四目録イ、ハ記載の不動産を訴外張仁輝所有の別紙第四目録ロ、ニ記載の不動産とあわせて被告張兆錠に同人に対する消費貸借による右仁輝との連帯債務二〇八万円の代物弁済となし、岡年二月一日同人に対する所有権移転の登記手続をすませ、主文第七、八項記載のように同年一月一八日別紙第二目録ハ記載の不動産を右仁輝所有の別紙第二目録イ、ロ記載の不動産と共に被告張仁盛にあわせて代金六〇万円で売り渡し、同月一九日同人に対する所有権移転の登記手続をすませ、一〇項記載のように同年五月二七日別紙第三目録記載の不動産を被告岡田平八郎に贈与し、同月二八日同人に対する所有権移転の登記手続をすませた。

五、訴外張仁吉は別紙第五目録記載の不動産以外に前記滞納租税を完納するに足る財産を有しないにかかわらず、右不動産に対する差押を免れるため、主文第一一、一二項記載のように同年一月一八日被告張実に売り渡し、同日同人に対する所有権移転の登記をすませた。

六、よつて原告は前記租税債権につき前記滞納者等に対し滞納処分をしようとしても、右滞納者等には資力がないから、国税徴収法第一五条に基き右滞納者等と被告等の間になされた前記譲渡行為を取り消すと共に、被告等に対して、所有権移転登記の抹消登記手続を求める。

第三、被告等の答弁及び抗弁

一、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

二、請求の原因第一項の事実中、訴外張安、張仁輝、張仁八、張仁吉が原告主張どおりの住所に居住し、訴外張兆森が原告主張日時に死亡したこと、右兆森と前記訴外人等の身分関係が原告主張どおりであることは認めるが、その他は知らない。

三、同第二項の事実中、被告小島久江が訴外張安から原告主張のように不動産を買いうけ、その所有権移転登記をしたことは認めるが、その他は争う。

四、同第三項の事実中、被告張仁盛及び被告張兆錠が訴外張仁輝から原告主張のように不動産の譲渡をうけ、その所有権移転登記手続をしたことは認めるが、その他は争う。

五、同第四項の事実中、被告張兆錠、被告張仁盛、被告岡田平八郎が訴外張仁八から原告主張のように不動産の譲渡をうけ、その所有権移転登記手続をしたことは認めるが、その他は争う。

六、同第五項の事実中、被告張実が訴外張仁吉から原告主張のように不動産を買いうけその所有権移転登記手続をしたことは認めるが、その他は争う。

七、かりに訴外張安、張仁輝、張仁八、張仁吉が原告に対して租税債務を負担していたとしても、被告等は右訴外人等から本件不動産を譲りうけた当時右のような事実は全く知らなかつたので善意の譲受人である。

八、かりに被告の右主張が失当であるとしても、訴外張仁八と被告岡田平八郎との間になされた譲渡を除く他の前記訴外人等と被告等の間になされた本件譲渡については、原告は昭和二九年二月二八日より以前に右譲渡の事実を知つたから、右行為の取消請求権はその時より二年を経過した本訴提起前(昭和三一年二月二八日)時効完成によつて消滅した。よつて右の範囲で原告の本訴請求は失当である。

九、なお亡張兆森の本籍は中国福建省福清県であり、右福建省は右兆森に対する相続の効力発生当時より中華人民共和国(以下単に中共という)の治下にあるから、その相続は法例第二五条により被相続人の本国法によるべきであり、その本国法は法例第二七条第三項の趣旨から中共の法令である。そして中共には現在まで相続に関する成文法は存在しないから、右兆森の相続については同人死亡当時の所属地方である福建省福清県の慣習による外なく、その慣習は配偶者がある場合は一応その配偶者が全部相続し、相続後自己の意思によつて卑属に適当に財産を配分することになつている。従つて本件においても亡兆森の遺産は配偶者訴外張安が相続したので、その他の前記訴外人等は相続していないから原告はこれら訴外人に対しては相続による租税債務を主張することはできない。ただ中共政府は現在我が国が国際法上承認していないから、本件において右中共の相続法を適用することにつき疑問があるが、本件のように国際私法上本国法を決定するに当つては本人の意思によつて決定すべきで、国際法上の承認の有無には左右されない。そして右兆森は福建省福清県を支配する国の国民たることを希望表明していたから、本件相続についても国際私法上法例第二七条第三項の趣旨から当然右中共の法令を基礎として判断しなければならない。(原告主張の均分相続が正しいとしても、原告は右兆森の長女張シゲ子を相続人に加えていないので各訴外人等の承継額に相違を来たしている。)

第四、原告の右被告等主張に対する反駁

一、被告等主張の抗弁事実はすべて否認するが、かりに亡張兆森の本籍が被告等主張どおりであつても、中共政府は現在我が国において承認していないから、国税を徴収する日本政府としては法例第二五条の解釈上亡張兆森の相続につき、我が国の承認している中華民国の相続法を適用するのが当然であつて、中華民国の民法第一、一三八条、第一、一四一条及び第一、一四四条によれば、被相続人に配偶者及び直系血族の卑属がある場合は全部の者が均分相続することになつている。従つて本件において張兆森の配偶者訴外張安、直系卑属訴外張仁輝、張仁八、張仁告等は被相続人張兆森の租税債務を均分に承継している。右訴外人等においてもそれぞれ昭和二八年四月九日遺産分割協議書を添付して自主的に相続税の申告をしたのである。

二、かりに本件租税債務の承継及び相続税については中共の相続法によるべきものとすれば、足利税務署長のした課税処分は法例第二五条の解釈適用を誤り相続人の認定を誤つた違法があることになるが、我が国は現在中共政府を承認していないので本件につき中華民国法と中共法の何れを本国法として適用すべきか解釈上疑義のある問題であり、現在中共には相続について成文法なく、被告等主張のような慣習の存在も明かでない。のみならず本件訴外人等四名は訴外張美代子と共に相続人として遺産分割協議書を添付してそれぞれ自主的に相続税の申告もしているのであるから、足利税務署長が本件につき訴外人等を亡張兆森の相続人と認定して更正或いは決定処分をしたことを目して重大かつ明白なかしがあるとはいえない。したがつて訴外人等四名に対する右署長の各課税処分が前記かしに基く違法な処分であるとしても、取消事由に過ぎないから、取消権限のある行政庁又は裁判所により取り消されない以上課税処分は有効であり、右訴外人等は本件租税債務を負つている。

第五、証拠<省略>

理由

一、訴外張安、張仁輝、張仁吉は足利市通四丁目二、五六二番地に、訴外張仁八同市西宮市二、八九六番地に居住しており、張安は訴外張兆森の妻で、張仁輝、張仁八、張仁吉は張兆森の子であるが、張兆森は昭和二六年一月二七日死亡したこと、訴外張安は昭和二九年一月一八日別紙第一目録記載の不動産を被告小島久江に売り渡し、同日同人に対する所有権移転の登記手続をすませたこと、訴外張仁輝は昭和二九年一月一八日別紙第二目録記載のイ、ロの不動産を訴外張仁八所有の別紙第二目録記載のハの不動産と共に被告張仁盛にあわせて代金六〇万円で売り渡し、同月一九日同人に所有権移転の登記手続をすませ、同年一月一五日別紙第四目録記載ロ、ニの不動産を訴外張仁八所有の別紙第四目録記載イ、ハの不動産とあわせて被告張兆錠に同人に対する消費貸借による右仁八との連帯債務二〇八万円の代物弁済となし、同年二月一日同人に対する所有権移転の登記手続をすませたこと、訴外張仁八は昭和二九年一月一五日別紙第四目録記載イ、ハ記載の不動産を訴外張仁輝所有の別紙第四目録ロ、ニ記載の不動産とあわせて被告張兆錠に同人に対する消費貸借による右仁輝との連帯債務二〇八万円の代物弁済となし、同年二月一日同人に対する所有権移転の登記手続をすませ、同年一月一八日別紙第二目録ハ記載の不動産を被告張仁盛に右仁輝所有の別紙第二目録イ、ロ、記載の不動産とあわせて代金六〇万円で売り渡し、同月一九日同人に対する所有権移転の登記手続をすませ、同年五月二七日別紙第三目録記載の不動産を被告岡田平八郎に贈与し、同月二八日同人に対する所有権移転の登記手続をすませたこと、訴外張仁吉は同年一月一八日別紙第五目録記載の不動産を被告張実に売り渡し、同日同人に対する所有権移転の登記手続をすませたことは当事者間に争がない。

二、証人田中源一の証言及び成立に争のない甲第一号証の一、二の(一)ないし(三)、三、四の(一)、(二)、五の(一)ないし(三)、同第二号証の一、二の(一)ないし(二)、(三)、四の、(一)、(二)、五の(一)ないし(三)、同第一〇号証、同第一三号証の一ないし五、第一四号証によれば、張兆森死亡後張安、張仁輝、張仁八、張仁吉、張美代子は昭和二八年四月九日遺産分割協議書を添付して右兆森に関する相続税の申告をしたが、税務署長は調査に基き原告主張日時に原告主張のように更正(決定)し、その納入を告知したこと、又張兆森は原告主張のように申告所得税、贈与税、富裕税につき申告をしないで死亡し、同人の相続人も申告しなかつたので、税務署長は調査に基き張安、張仁輝、張仁八、張仁吉等が同人の右粗税を原告主張のように相続人として納入すべきものとして決定し納税告知をしたこと、張仁輝は昭和二六年分所得税及び昭和二四年分贈与税につき、張仁八は昭和二六年分所得税につき申告をしなかつたので、原告主張のように税務署長は調査に基き決定し納税告知したが、右訴外人等は何れも未だ納税していないことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

被告等は右訴外人等が原告に対して租税債務を負担していることを争うけれども、右に認定したように、右訴外人等の本件租税債務は何れも足利税務署長の課税処分に基くものであつて、右課税処分はいわゆる行政行為として絶対無効(行政行為に内在するかしが重大かつ明白な場合と解する)と認められる場合の外は原則として適法かつ有効の推定をうけ、一定の争訟手続をもつて争いその取消をうけるまでは一応相手方を拘束する力を有するのであるから、本件においては右課税処分が当然無効でない限り、被告人等において右租税債務の不存在を主張できないものといわなければならない。

そこで本件課税処分に当然無効と認めるべきかしがあるか否かを検討しよう。被告等は本件課税に当つて張兆森の相続に関する準拠法を誤つていると主張する。証人張仁輝、張仁八、張仁吉の各証言によれば、張兆森は中国福建省福清県の出身であつて同人の本籍も同地にあることがうかがわれる。ところで、わが国際私法では一般に身分法上の法律関係については当事者の本国法を適用すべきものとしているが、現在中国は中共政府と中華民国政府とが対立抗争し、それぞれ支配領域を有して別個の法秩序を形成しており、わが国は中華民国政府を中国の正当政府として承認し、中共政府を承認していないので、殊に中共政府の支配地域に本籍を有する中国人につき、その本国法は何れの法律であるかを決定することは困難な問題である。そして中共の支配地域に本籍を有する中国人間の離婚事件に関し中共の法律を適用した下級審の判決があるが、同じく中共の支配地域に本籍を有する中国人を無国籍人として取扱い本国法の代りに住所地法である日本法を適用した下級審の判決もあり、また現在の段階においては従前より日本に在住する中国人の中には、本籍地の如何に拘らず身分法的生活関係につきなお中華民国の法律秩序従つてその法域により密接な関係をもつと認むべきものが少くないとも考えられると論ずる学者もあり、原告主張のように中共政府の未承認の故を以て中華民国法を適用するほかないとの説もある。(法律時報昭和三一年一〇月号溜池良夫氏論文参照)このようにみてくると、かりに被告等主張のように本件の相続問題について中共の法令を適用すべきであるとしても、本件課税処分を目して重大かつ明白なかしがあると断ずることはできず、従つて当然無効の行政処分ということはできないのである。(証人大塚米次の証言によれば、本件課税処分当時足利税務署長において明確に中華民国民法に準拠するとの意思を有したかは疑しいが、このことは右判断の妨げとはならない。)

三、ところで、成立に争のない甲第四号証、同第五号証の一、二、同第六ないし第八号証、同第一一、一二号証及び証人田中源一、同斉藤一衛、同赤羽喜夫、同小林栄、同清水明夫、同上野喜夫、同宮下辰生の各証言を綜合すれば、訴外張安、張仁輝、張仁八、張仁吉等は何れも前記争のない事実記載のとおり処分した不動産以外に右滞納租税を支払うべき財産の乏しいこと、被告小島久江は張仁輝の妾であり、被告張仁盛、同張兆錠は張兆森と同郷の遠い親族であるが張の家族とは懇意の間柄であり、被告岡田平八郎はその妻が張仁八等の兄張仁平の妻の姉に当り、被告張実は張仁吉等の甥に当るなど前記訴外人等の本件処分の相手方は何れも張の家族と親しい間柄であること、本件処分行為及び登記の日時は何れも右訴外人等の納税に関し足利税務署長より納税告知のあつた後であること、本件処分の対価関係が明確でないこと及び処分の状況に関し当事者間陳述にくいちがいがあるなど首肯しがたい点が認められ、これらの事実を綜合すれば前記張安、張仁輝、張仁八、張仁吉等は本件租税債務を免れるために本件処分に出たものと推認するのが相当であつて、証人張仁輝、同張仁八、同張仁吉の各証言及び小島久江、同岡田平八郎、同張実各本人尋問の結果のうち右認定に抵触する部分は前記認定と対照して措信できない。

四、次に被告等は右張安等訴外人が租税債務を負担していることは本件不動産を譲りうけた当時全く知らなかつたと主張するけれども、前認定のような被告等と訴外人等の関係及び本件処分の状況等を考えると、証人張仁輝、同張仁八、同張仁吉の各証言及び被告小島久江、同岡田平八郎、同張実各本人尋問の結果も直ちに措信することはできないし、他に右被告主張事実を認めるに足る証拠はない。よつて被告等の本件譲受当時善意であつたとの抗弁は採用できない。

五、更に被告等は訴外張仁八と被告岡田平八郎との間になされた本件譲渡を除いた他の本件訴外人等と被告等との間の譲渡については、その取消請求権が本訴提起前時効完成し消滅したと主張するけれども、原告において昭和二九年二月二八日より前に右譲渡の事実を知つたことを認めるに足る証拠はなく、かえつて、証人斉藤一衛の証言によれば、同年三月にはいつてから足利税務署の調査により覚知したことが認められるから、被告等の右抗弁も失当である。

六、以上に判断したような次第であるから、右訴外人等と被告等との間になされた本件譲渡は国税徴収法第一五条によつて詐害行為として取消を免れない。よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋正憲)

滞納税額明細表 第一乃至第五目録<省略>

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